世界史研究会創立宣言
自由や道徳の世界史的認識を問い直す機運は、21世紀に入り、「人類にとって近代とは何だったのか」改めて考え直そうとする思潮となってますます強くなっています。今世紀に生きる我々が、人類を今日ならしめている「世界の歴史」事象についてその本質を積極的に明らかにしようとすることは、1951年故酒井三郎が熊本大学において、「熊本大学世界史研究会」をおこし、『世界史研究』を創刊した精神に深く関わります。以来その精神は脈々と生き続け、1968年に彼が立正大学に移ったのち、その教え子達によって、「立正大学西洋史研究会」(1977年)、『立正西洋史』(1978年創刊号~2010年第27号)へと引き継がれました。
今またここに、その精神は一大学の研究会を超越し、広く「世界史研究・世界史教育を中心に、隣接諸学・複合領域の研究を目的」として「世界史研究会」を創設し、研究誌『世界史研究論叢』を創刊することになりました。これにより我々は、世界史研究が人と人、人と事象の歴史的繋がりを解明しようとする積極的・選択的意識の普遍的あらわれである、との考えを深くするところであります。いわば、酒井三郎が種をまいた「熊本大学世界史研究会」をホップとすれば、その指導を受けて成立した「立正大学西洋史研究会」はステップであります。そして今また、かの精神に賛同する者を中心に新しく「世界史研究会」を創立し、『世界史研究論叢』を創刊することは、熊本に発生した世界史の研究・教育活動が、人間の思惟と行動の基点となる新しい歴史認識の獲得に向かってジャンプすることであります。
「世界の歴史」が人間の理性的認識の上に成立することは勿論ですが、人間の理性的認識もまたその時々の歴史認識を基礎としています。酒井三郎は、「世界史と文化史」(『酒井三郎博士喜寿記念:世界史研究論叢』1977令文社)の中で次のように述べています。ヴォルテールが「『ルイ十四世時代史』を書いたとき、彼は「世界史」を書こうとしたのか、あるいはまた「文化史」を書こうとしたのか、もとよりいずれの言葉も遣ってはいない。ただこれまでの歴史叙述とちがったものを書こうとしたことは事実である」と。さらに次のようにも指摘しています。「さて世界史に2つの途があり、いずれもヴォルテールにおいて見出されるのであるが、はたしてどちらが世界史として正当であるか。結論を先に言えば、どちらも正しいと言わなければならない。前者は…文化圏的世界史であり、後者は地理的世界史である」。あるいはまた岡崎勝世は、『聖書vs.世界史』(1996講談社現代新書)
第四章「啓蒙主義的世界史の形成」の中で、「ヴォルテールが描く世界は、地球大の規模を有している。…しかも、ただ世界が拡大されただけではない。中国、インド、イスラムなど、普遍史では従来ほとんど触れられることすらなかった諸文明を取り上げ、それらにいずれにも高い評価を与え、…彼は、こうして文明の一元的発生を述べている聖書に反対し、その多元的発生論の立場を主張している」と述べています。
我が国の多くの高校生が学ぶ「世界史」の内容は、世界史が私たちにとって有する意義という視点に乏しく、興味本位で地理的、網羅的な各国史であると指摘されています。こうした意見は、多くの世界史研究者・教育者のあいだにも決して少なくありません。(酒井三郎著『復刻・解説 国家の興亡と歴史家』巻頭の「復刻にあたって」参照。)
「世界の歴史」事象についてその本質を積極的に明らかにしようとすることは、世界史研究・世界史教育に携わる者の使命であると同時に、その結果到達した考えや成果を発表することも重要な責務であります。ここに創立いたします「世界史研究会」は、言わば、世界史研究・世界史教育に携わる者が自らの視点や考え方をたたかわせる場であり、『世界史研究論叢』は、それを世に問う場であることをここに宣言します。
2011.09.03
世界史研究会
会長 青木信家
第1条 本会は世界史研究会と称する。
第2条 本会は事務局を下記の住所に定める。
〒920-1192 石川県金沢市角間町 金沢大学人間社会研究域 歴史言語文化学系 石黒盛久研究室
第3条 本会は世界史研究・世界史教育を中心に、隣接諸学・複合領域の研究を目的とする。
第4条 本会は上の目的を達成するため、下記の事業を行なう。① 研究誌『世界史研究論叢』および会報等の発行。 ② 講演会・研究報告会・読書会・フィールドワーク等の開催。③ その他、ホームページ運営ほか本会の目的遂行上必要と認めた事業。
第5条 本会は下記の会員で組織する。いずれも会員1名の推薦、理事会承認を経る。①正会員:会費を納入し、第3条・第4条の全てに関係し、総会議決権を有する。 ②準会員:研究誌を購入し通信物を無料で受け取る。総会議決権を有しない。
第6条 本会は下記の機関の構成により運営される。 ① 総会、②理事会、③研究論文査読委員会、④運営委員会、
第7条 総会は本会の最高議決機関である。 ①定期総会:毎年1回、会計年度開始期に開催する。 ②臨時総会:理事会においてその必要を認めたときに開催する。
第8条 総会はこの会則に規定するもののほか、次の事項を議決する。議決には書面、電磁的方法に基づく委任状によるも含まれる。 ①事業計画の決定 ②事業報告の承認 ③予算および決算の承認 ④その他、本会の運営に関わる重要事項
第9条 理事会は理事をもって構成し、次の事項を議決する。やむをえない場合は電磁的方法等による持ちまわりの審議・議決を行なう。 ①総会に付議すべき事項 ② 総会により付託された事項 ③ 総会で議決した事項の執行に関する事項 ④その他、査読委員の委嘱など総会の議決を要しない会務の執行に関する事項
第10条 本会は下記の役員を置く。 ① 会長(1名)、②理事(若干名)、③監事(若干名)、④事務局長(1名)、⑤運営委員(若干名)
第11条 役員の任期は3年とし、再任を妨げない。
第12条 本会の経費は会費及び寄付金等を以ってあてる。
第13条 本会の会計年度は毎年4月1日に始まり、翌年3月31日に終わる。定例総会において予算案審議、および会計報告を行ない、承認を得る。
第14条 本会則は総会において出席者の半数以上の賛成により改正することができる。
【付則】本会会員は、会計年度始めに下記の会費を納入する。正会員:年額2000円(ただし大学院生は1000円、大学生は500円とする) 準会員:機関誌『世界史研究論叢』(当該年度号)頒布額。
平成23年9月3日制定/平成23年9月3日施行/令和3年4月1日修正
運営委員・事務局(2024年度)
会長 石黒盛久(査読委員長)
顧問 石塚正英
理事 岡本充弘、新谷卓、尾﨑綱賀、古賀治幸、中島浩貴
運営委員 中島浩貴(事務局長)、板倉孝信(編集長)、寺田佳孝(会計)、清水雅大(例会担当)、田中淳一、小島望、永島育、湯浅翔馬